緩くいこうぜ、人生長いんだ。

30代、適当に生きようぜ。

父が絵画を買っていた理由

小学生の頃、私は父の仕事の関係でヨーロッパに住んでいた。当時はまだEUではなかったが、車でどこにでも行けるため、イタリアやオーストリア、スイスなど様々な国に車で行ったものだ。

 

当時父は、旅行先で絵画を買っていた。お店で買うのではなく、道端で絵を描いている絵描きから。だから全く有名な絵ではないし、描かれているものも、何の変哲もない街並みだったりする。

日本に帰ってきてから、父はその絵を家中に飾っている。階段や居間、トイレにまで。実家に住んでいた頃は、それらえについて何も思うことはなかった。母も「絵がたくさんあって邪魔ねぇ」と言っていた。

 

先日、ふとした時に、父が当時絵画を買っていた理由が分かった気がした。

いつか、当時を思い出すためだ。それも、自分だけでなく家族で。

旅行先で、道端の絵描きから買った何気ない絵画。それは単体で見れば何の変哲もない絵画だが、それを見ながら話をすれば、「あの時はあそこに行ったね」とか「このときはこんなことがあったね」とか、そんなことを思い出して話すことができる。

それは間違いなく、家族で過ごした大切な思い出であり、忘れてはいけないものだ。

 

残念ながら、帰国後家族の関係はそこまで良くはならなかったので、未だにそんな会話はしたことがない。でも、もしかしたら父は、いつかそんな会話をしたいと思って、待っているのかもしれない。もう日焼けして、色あせてしまった絵画を時々眺めては、独り思い出に浸っているのかもしれない。

父は、決していわゆる良い父親ではなかった。でも、きっと彼は当時、異国の地で何とか生活をしようと仕事も家庭も凄く頑張っていた。自分には想像できない大変なことがあっただろう。そんな中での家族旅行だからこそ、ただ楽しむのではなく、将来を振り返って家族と会話できるように、絵画を買っていたのかもしれない。そしてそのためには、有名な画家の絵ではなく、何気ない日常を切り取った絵画の方がよかったのかもしれない。

 

父が買った絵画は、まだ実家に飾られている。

今度実家に帰ったら、私から絵について聞いてみよう。

そこから、また新しい何かが始まるかもしれないから。