【楽曲感想】春泥棒/ ヨルシカ
春は短い。
それは人生のようなものなのかもしれない。
世の中に春ソングは数あれど、私にとっては圧倒的にこの曲、ヨルシカの『春泥棒』。
ヨルシカの楽曲は、まるで小説のように物語を紡ぐ。特にこの曲は、この前に出たアルバム「盗作」から連なっている。そのため、MVのストーリー的には「盗作」の主人公の過去的な話になっているようなのだが、その辺はあまり追っていないのでよくわからない。というか、それは楽しみ方の一つに過ぎないのであまり気にしなくて良い。
この楽曲の最もすごい点は、春ソングであり明確に桜のことを歌っているのに「桜」という単語が一度も出ないことだ。歌詞をよく読むと、主人公から見た情景とその独白しかない。それでも明確に桜の存在を感じられるのは、ヨルシカの表現力と日本人のDNAに刻まれた桜に対する想い故だろう。
また、この楽曲では桜を命に例えて、その儚さも表現している。大切な人の命が尽きようとしており、限られた時間を一生懸命に過ごそうとする姿勢が、限られた時間しか咲かない桜との出会いとリンクしている。曲が終わりに近づくに従って桜の花が散っていく様が描かれおり、最後の方の歌詞はもう泣ける。
あと花二つだけ
もう花一つだけ
ただ葉が残るだけ はらり
今 春仕舞い
個人的に一番のお気に入りの点は、楽曲全体を通してこれだけ言葉に魂を込めているのに途中で言葉の無力さを訴えている点だ。
愛を歌えば 言葉足らず
踏む韻さえ億劫
花開いた今を言葉如きが語れるものか
どれだけ美しい言葉でも、どれだけ美しい韻でも、愛には叶わない。それは満開の桜を前にして言葉を失うのとリンクする。
というか、歌詞を書いて言葉を操る人間が、ここまで潔く言葉の無力さを表現できるかね。もうこの歌詞がこの楽曲の全てと言っても過言ではないよ。
ということで、現実でもあっという間に春がやってきて、あっという間に過ぎていこうとしている。既に桜は散り始めているが、この曲と合わせて見ればその姿もまた、良いものかもしれない。