花束を抱える男性
3月31日23時
ターミナル駅のホームにあふれる雑踏
その中に一人、一際鮮やかな花束を抱える男性が佇む
白髪頭
ダボっとしたスーツ
ボロボロのカバン
ヨレヨレの革靴
定年退職、あるいは異動だろうか
どんな仕事をしてきたのだろうか
どんな立ち位置の人なのだろうか
私からは決して知る由もないが、長年の苦労と疲れが滲むその顔には、一抹の安堵と達成感が滲んでいた
花束は、誰かから誰かへのメッセージだ
それは感謝であり応援でもある
長年いた場所から旅立ち、新しい場所に向かう人に向けてのはなむけとしては、これ以上のものはない
長年いた場所から離れるとき、誰か一人からでも花束がもらえたら、きっとそれだけで幸せだ
だからきっと、その男性は幸せなのだろう
私も、これからの人生で沢山の旅立ちを経験するだろう
その時に、誰か一人でも花束をもらえるような人生を送りたい
きっとそれだけで、私も幸せになれるのだ